北海道浅井学園大学生涯学習叢書・5

学習社会の健康とまちづくり

  
浅井幹夫・藤原 等 監修
北海道浅井学園大学生涯学習研究所 編著
A5判・214ページ 定価2,604円(本体2480円+税)
ISBN 4-86108-020-7 C3037 \2480E
2005. 3. 18  第1版 第1刷

目 次

 序 北海道浅井学園大学生涯学習研究所
第1章 教育ディベートが導く協創の原理 田口 智子
第2章 ピア・サポート ネットワーク作りの意義と活用 中出 佳操
第3章 発言カテゴリーの生成からみる健康相談活動の過程  今野 洋子
  ──修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて──
第4章 中等度・強度の水中エアロビクス実施が深部体温に及ぼす影響 小田 史郎
第5章 生涯学習に発展する体育授業の試み 竹田 唯史
  ──女子大学生を対象としたソフトボール授業について──
第6章 生涯学習社会と京都府舞鶴市のまちづくり 水野信太郎
第7章 地域の活性化と文化活動の振興 村井 俊博
  ──「コンサート in 朱鞠内」の実践から──
  監修者紹介
  監修・執筆者等一覧

   カバー装画 阿部 典英
   扉絵 野崎 嘉男


はじめに 
 21世紀は生涯学習社会になるであろうと多くの識者が主張してきました。21世紀も2004年を越え2005年を迎えた今、我が国の学習は実に多様な教育機関・学校で行われるようになってきています。
 学習塾、フリースクール、NPO、株式会社も盛んに学習事業を展開し始めています。また、公設民営学校、民設公営学校なども誕生しつつあります。このように多様な設置形態の学校が教育に参入する時代になってきました。2004年3月の中教審答申は、公立の幼稚園と高等学校の運営を学校法人に委託することを述べていましてこのような方向は益々進展することが予想されます。
 幼稚園と保育所の一体化、特殊教育諸学校(障害児教育学校)を特別支援教育学校へと改編するなどのことを考えてみますと、学校と地域社会との関係において、これまでまったく考えてもいなかったような新しい関係の構築を求めていると思われます。これらの姿が多くの識者が描いていた21世紀の生涯学習社会での学習機関であり、学校の形態であり、学習形態であったのかどうか、この時点で一度議論をしておく必要があるかも知れません。
例えば、生涯学習支援政策は、すべての人々に生涯にわたって生涯学習を享受できるようにという前提で推進されています。社会的不利益層(何らかのハンディキャップを持った人々)に属する人々の生涯学習はどのように保証されているのでしょうか。社会的不利益層とは、具体的には女性、高齢者、障害者、少数民族などのことをこの場合は言っているのですが、元気元気という高齢者の生涯学習計画は、それなりに探せばあると思われます。
 しかし、21世紀我が国社会の少子高齢化は五体満足な高齢者の数よりは、どこかに不自由を持った高齢者の数が多くなると予測されるわけです。こうした、どこかに不自由を持った高齢者が、また、障害を持った人々が生涯学習をしたいという学習ニーズを懐いた時に、その学習ニーズに対してどのように学習を保証したら良いのでしょうか。健常者の学習の場に受け入れてもらえるのでしょうか。受け入れてもらえたとして、どのような学習支援が受けられるのでしょうか。特別な学習ニーズに応じた特別な学習支援システムがその健常者の学習の場に存在しない限り、存在させない限り、すべての人々が、一人ひとりの学習ニーズに基づき、生涯を通して学習できるという生涯学習社会など総論のまた総論になってしまうのではないでしょうか。
 上で紹介した、多様な教育機関・学校で行われようとしている我が国社会での学習が、社会的不利益層にとっても、必要に応じて特別な学習ニーズに基づく、特別な学習支援システム(常備されている必要がある)を利用できるような方法をもった学習として成立させる必要があるのではないでしょうか。そして社会的不利益層ではない人々と共にその学習を成立させることが必要になります。そのように現下の学習社会は進展しつつあるのかどうか、注視しなければならないでしょう。
 考えてみれば、健常者の学習もまた一人ひとりを見れば多かれ少なかれ特別な学習ニーズを持っていますから、その意味では、特別支援教育であり、特別支援学習なのではないでしょうか(人生の、どこかの時期に、社会的不利益層の一員になる可能性が強いわけです。)。社会的不利益層の学習が、生涯学習支援政策の中心に据えられる時に、学習の場が学習塾でも、フリースクールでも、NPOでも、株式会社、公設民営学校、民設公営学校、従来型学校であっても、一人ひとりの生涯学習が21世紀型として根づくのではないかと考えられます。
2004年、北海道は、これからの10年を見通して「第2次北海道生涯学習推進基本構想」の策定に着手しました。現時点での同構想案によりますと次のような見出し項目が目につきます。「北海道らしい生涯学習社会の構築」、「明日の北海道を支える人づくり」、「北の大地における地域づくり」、「生涯学習における北海道スタンダードの構築」などです。そして、この「構想の実現のために」と題して、「道の役割」、「市町村の役割」、「民間への期待」、「道民の取組」という区分が目につきます。
 本研究所としても、この第2次基本構想を大いに注目し期待しているわけですが、「北海道らしい生涯学習社会」をとっても、「北の大地における地域づくり」をとっても、上述したように、多様な教育機関・学校で行われるようになってきた我が国の学習社会の中でどのように「北海道らしい生涯学習社会」を構築しようとしているのか、また本叢書第6巻の序で紹介しているような市町村合併が進行する中で「北の大地における地域づくり」をどのように推進しようとしているのか注目しているわけです。そして、この構想を実現のためには、本当に「道の役割」、「市町村の役割」、「民間への期待」、「道民の取組」という区分で良いのかどうか。こんなところも考えてみたいと思っています。できれば、何か提案をしていければ良いと考えています。それは多分生涯学習支援の方策で各論として切り込んだ提案が必要になるのではないかと思われるからです。北海道が取り組んでいる第2次生涯学習推進基本構想策定の内容を大切にしなければならないと考えているからです。

 上述のように人間と学習の関係は21世紀我が国社会において、北海道においても、新しい特別な意味を持つことになったわけですから、本研究所としても、本学生涯学習システム学部としても、本学大学院生涯学習学研究科としても知の創造と集積に努力していかなければなりません。そして、その知は、実践知を基盤にしながら理論知に高めていかなければならないものと考えています。
 ささやかですが、この度、本研究所生涯学習叢書第5巻「学習社会の健康とまちづくり」を出版することができました。査読の結果7名の所員に執筆してもらいました。地域貢献の一つになれば良いと考えています。読者諸賢のご指導、ご助言を賜りたく存じます。
 最後になりましたが、カバー装画は阿部典英所員に、扉絵は野崎嘉男所員に担当していただきました。記して、感謝を捧げます。また、二瓶社の社長吉田三郎氏、同社編集部の駒木雅子氏には大変困難な仕事をお引き受けいただきました。時間が切迫する中でていねいな仕事をしていただきました。感謝申し上げます。

     2005年3月
    日々、雪がとける音、北の大地を破る芽吹きの生命に輝きの太陽を感じながら、文京台の研究所にて。
    編著者 北海道浅井学園大学生涯学習研究所

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