わかりやすい 認知療法


  
マイケル・ニーナン
ウィンディ・ドライデン 著
大谷 彰 監訳 / 玉井 仁 訳

認知療法の基本要素は何かを、できるだけ簡潔に明らかにすることを目的としている。対人恐怖症のクライエントの事例を通して、認知療法が実際にどのように進められるのかを示す。

A5判・136ページ 定価1,680[本体1,600円+税]
ISBN 978-4-86108-046-3 C3011 ¥1600E
2007. 12. 10  第1版 第1刷


もくじ



第1章 認知療法の概観
第2章 アセスメント(査定)
第3章 否定的自動思考を引き出し、検討する
第4章 ホームワーク
第5章 背景にある前提とルールと中核信念を明らかにし、検討する
第6章 セラピーで得たものの維持

参考文献
索 引
あとがき



監訳者あとがき
 筆者が米国の大学院でカウンセリング心理学を修めていた1980年の初頭、クライアントの見解や考え方を行動療法に組み込む画期的なアプローチが紹介され盛んになりつつあった。それまでの行動療法は直接に観察することのできる行動、すなわち顕在行動だけに焦点を当てるアプローチが正当とされ、思考やイメージなどの認知活動、すなわち他人に観察できない内潜行動を扱うことは非科学的とされていたのである。徹底的行動理論という極端な行動主義を信奉していたある教授にいたっては、模倣学習の研究から社会学習理論を提唱したA・バンデュラ Bandura を「裏切り者」と呼び、認知をつかさどる大脳を単なる「ブラックボックス」としかみなさないといった、まさに認知にとっては暗黒の時代であった。
 あれから四半世紀、様相は一変した。認知は認知心理学としてその地位を確立させ、画像診断などニューロサイエンスの最新手法を駆使して研究されるようになったのみならず、臨床心理学においても認知療法、また認知行動療法として積極的に応用されるようになった。これらのアプローチに対する人気は高まり、2002年に行なわれた調査によると、認知療法と認知行動療法は近い将来、心理治療アプローチとしてトップの座をしめるであろうと専門家たちはすでに予測している。これを反映して、書店の店頭にはこれらの理論と実践について論じたテキストが数多く並んでいる。認知による療法を専門とする者にとっては喜ばしい限りであるが他方、初心者やこれから認知アプローチを学ぼうとするカウンセラーやセラピストにとってはいったいどのテキストが適切なのか、選択に迷うこともまた想像に難くない。
 今回、二瓶社から出版されることになった「わかりやすい認知療法」はSAGE Publications の「わかりやすいカウンセリング」シリーズの1冊として2005年に刊行された Cognitive Therapy in a Nutshell の訳出である。原題の in a nutshell とは元来「要点をかいつまんで」といった意味合いのフレーズであるが、「余計なことがらを取り除き、簡潔でわかりやすい」といったニュアンスが込められている。これゆえ「わかりやすい認知療法」とタイトルをつけることにした。ページ数からすると短いが、本書の内容は極めて濃厚である。本書を読み進むにつれ、読者は単に認知療法の理論だけでなく、実践で活用できる様々なテクニックが各章に満載されていることに気づくであろう。こうしたテクニックの要点はそれぞれ手頃にまとめられ、しかもテキストを通して対人恐怖に悩むクライアントの例を引くことにより、それらの導入方法や注意点についても細心の注意が払われている。まさに読者にフレンドリーな一冊と言ってよい。
 訳出にあたっては境界性人格障害の認知療法などで業績を上げている玉井仁がまず日本語に起こし、それをもとにメリーランド大学の筆者、大谷彰が原語に含まれた文化的背景やニュアンスをできるだけ忠実かつ正確に反映させるよう監訳を行なった。こうした苦心の結果、極めて読みやすく、「わかりやすい」翻訳になったと自負している。本書が認知アプローチになじみの薄い初心者だけでなく、すでに認知療法、認知行動療法を実践しているカウンセラーやセラピストにとっても役に立てば訳者らにとって最高の喜びである。

 最後に、本書の邦訳と出版を一手に担われた二瓶社社主、吉田三郎氏に心からお礼を申し上げる。

大谷 彰  


監訳者・訳者紹介


大谷 彰 おおたに あきら 上智大学外国学部(英語専攻)卒業後、米国に渡りWest Virginia University大学院にてカウンセリング心理学を専攻する。教育学博士。Johns Hopkins University (1986-1989) 大学院でカウンセリングを教え、1989年よりシニア・サイコロジストとしてUniversity of Maryland Counseling Centerに勤務する。この間、メリーランド州の臨床心理士資格認定委員会副会長(19931996)を歴任する。最近では日本でもカウンセリングスキル研修はじめ、日本臨床催眠学会の理事として活躍している。

玉井 仁 たまい ひとし サイコセラピスト。臨床心理士。ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(天文学)卒業。NPO法人青少年自立援助センター立ち上げスタッフとして勤務後、立正大学大学院(臨床心理学)修了。公的機関にて教育相談員として勤務の後、IFF(家族機能研究所)セラピスト・相談室室長を経て、現在は東京メンタルヘルス・アカデミーにおいてセラピスト兼、研究開発部長。都内クリニックにおいても認知行動療法治療プログラムを提供中。日本認知療法学会・日本嗜癖行動学会において継続的に認知行動療法の発表を続ける。


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