行動科学ブックレット 4

元気に老いる


実験心理学の立場から


  
日本行動科学学会 編
岡市 洋子 著

生き物はみな、生きているかぎり、年をとる。加齢現象はヒトでもヒト以外でも共通して見られる。年齢を重ねることがめでたいという正のイメージの一方で、加齢に対する負のイメージも大きい。

A5判・66ページ 定価630[本体600円+税]
ISBN 978-4-86108-048-7 C3011 ¥600E
2008. 4. 15  第1版 第1刷


もくじ


第1章 加齢と心身の変化 5
  第1節 年をとるということ 5
  第2節 脳の変化 6
    1)脳重 6
    2)加齢により影響を受けやすい脳部位 7
    3)神経細胞数の変化 8
  第3節 生理・心理的変化 12
    1)体重 12
    2)平衡機能 13
    3)反応時間 14
    4)認知速度 14
    5)時間認知 15
    6)睡眠 16
第2章 記憶と学習への加齢の影響 19
  第1節 ヒトでの実験 19
    1)短期記憶 19
    2)長期記憶 21
    3)記憶に果たす手掛りの役割 23
    4)感情を伴う記憶 24
  第2節 サルの学習実験 27
    1)サルの実験でよく用いられる装置と課題 27
    2)空間記憶課題 29
    3)非空間的記憶課題 29
    4)視覚弁別課題 31
  第3節 ラットの加齢による学習障害と海馬 32
    1)海馬とは 33
    2)加齢による海馬の変化 33
    3)空間認知 35
    4)作業記憶 37
第3章 生理的老化と病的老化 40
  第1節 正常老化 40
    1)個人差 41
    2)老齢動物の対処方略 43
    3)百寿者 45
  第2節 アルツハイマー病 48
第4章 元気に老いるために 50
  第1節 運動と知的刺激 50
  第2節 食事 53
    1)食事量 53
    2)多価不飽和脂肪酸 55

  文献 60
  あとがき 64

あとがき

 老齢者というとき統計などでは 65歳以上を指すことが多い。しかし、多くの人は 40歳を過ぎるころから、加齢を感じるようになるようである。不老長寿ということは現代の科学では不可能なので、長寿を保つということは老いるということである。つまり、生きているということは老いるということなのである。生きて行き着くところは老衰か、と考えると誰もが暗澹としてしまうが、逆に、老いるということは生きている証なのだ、と考えることもできる。そうすると、いかに老いるか、ということが重要になってくる。 筆者は動物心理学者として、主にラットを対象として生涯発達の観点から老齢動物を扱ってきた。そして、いつも驚かされるのは、いかにラットとヒトは似ているか、ということである。加齢による身体的変化、意欲や学習能力の変化、さらには加齢とともに大きくなる個体差という点でもラットとヒトは同じである。また、年をとった動物は課題解決方略を変えることにより衰えた能力をカバーする、という点もヒトの行動と似ている。 このようなことを考えると、ヒトがよりよい老年期を迎えるために実験心理学からも提言ができそうだ、と考え、本誌を執筆した。そして、書き進むにつれて見えてきた道は、ヒトを専門に研究する老年学者の提言とおおむね重なる、という結果となった。本誌の読者には、よりよい老年期について考えると同時に、動物心理学についても思いをはせていただきたい、というのが筆者の願いである。

   岡市洋子  


著者について

岡市 洋子
 おかいち ようこ
1992年 同志社大学文学研究科心理学専攻博士課程前期課程修了
1998年 同志社大学文学研究科心理学専攻博士課程後期課程修了博士(心理学)
1999年 同志社大学文学部嘱託講師 (2008年3月現在)
専門 生理心理学
主著「行動の生理心理学」(ソフィア 共著)「心理学概論」(ナカニシヤ 共著)「比較海馬学」(ナカニシヤ 共著)

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